〈新・CEBU ものがたり〉新・人の暮らし(1)・洋服の寸法直し



ひさびさにブログを再開することにします。
タイトルは全編、「人の暮らし」

世界にはたくさんの国々があり、たくさんの人びとが生きています。
国によって風俗・習慣・文化・宗教が異なっていても、人の営みに、さほどのちがいはありません。
喜び、怒り、哀しみ、楽しみを繰り返しながら、今日を生き明日を生き、そうして未来の時間へと流れていく。

かなりの交通量がある本道沿いに、見劣りのする一軒の店がある。(下の写真)
ここは服の寸法直しを商売としている店です。(上の写真)

ミシンに注目してみてください。日本製の「SINGER」です。ずいぶんと年季が入っていますね。私が子供のころによく目にした記憶があります。5,60年も前のミシンが、ここセブ島では今も活躍しているのです。
この店は月曜から土曜までの毎日、午後から夕刻まで商いをしています。

リタという名のこのおばさんとは、もうすっかり顔なじみです。
今日は、セブ市にオープンした日本の「UNIQLO」で買ったポロシャツの丈を直してもらうために、また、リタと世間話でもするために訪れました。

「あーら、しばらくだねぇ。どうしてたの?元気?」
「リタはいつも元気そうだね。その元気を、少し、分けてくれないか?」
「ウフフフッ、あたしの元気でよけりゃ、いつでもタダで分けてあげるよ。今日は、なに?」
「ポロシャツがチョット長すぎるんだよ。丈を3センチ短くして」

初めてこの店にきたのは、昨年の8月ごろでした。
2018年の6月に完全移住してから半年くらいすると、あれよあれよと10キロ近くも体重が落ちてしまい、日本から持ってきた服という服が、ほとんど合わなくなってしまいました。移住してすぐに当地で買った服も、全部ブカブカ。

今は少しずつ体重が増えつつありますが、といっても元にもどることは、もう無理でしょう。急激な食事の変化ーー朝から晩まで、フィリピン料理ーーだけを体に入れていたのが主因でしょうね。

身に合わない服は、知り合いのフィリピン人にあげたりしていたのですが、お気に入りの衣類だけは、いつか直しに出そうと、残しておいたのです。
あるとき、セブ市の有名なショッピングモール内の、それなりに定評のある店にズボン3本を持ちこんで腰回りの寸法直しを頼んだことがあります。

料金は日本円に換算すると5500円も取られました。当地の工場で働いているフィリピン人の一か月分の給料の、ほぼ3分の一くらいの値段に相当します。その割には、満足のいく仕上がりとはいえない。以来、腰回りとかジャケットなどの、ちょっと手のこんだ直しは一切、出さないようにしています。

ある日の午後、プラリプラプラと散歩をしていたときに見つけたのが、この店です。散歩はいつも朝方ですから、午後から営業するリタの店には、まったく気づかなかったのも当然です。
ためしに、ヨレヨレになってしまったジーパンを半ズボンにするために、膝下で切って切り口を織り込んで縫製する直しを頼んでみました。ド素人にもできる一番単純な仕事です。

「そこに座って待ってなよ、すぐ終わるから」
店の前のくたびれた椅子に、ヨッコラショと腰かける。

「どこから来たの?国は?」「日本」

「Ah, nice ! Wife は?」「いない」

「どうして? まだ若いんだろう」「もう、73だよ」

「Ohoooooo ! どう見ても、50代に見えるよ」
「うん、よく言われる。日本にいたら、もっと、老けこんでしまうと思うけどね。セブに住んで、リタのような美人を毎日、見てるからね。気が若い分だけ見てくれも若くなるんじゃないかな」
「ウフフフッ、なかなか口が上手いね、あんた」

「今、仕事はなにをしてるの?」「しがない年金暮らしだよ」

「日本では奥さんや子供がいたんだろう?」「まあね。離婚したから」

「子供は何人?男の子、女の子?」ーーーーー
とまあ、次から次へと、”人定質問” のごとく、訊いてくる。

初対面で質問攻めにあうことは、当地では、決してめずらしいことではありません。まあ、一種の「儀式」のようなもんです。
タクシーやトライシクルに乗っても、同様の体験をすることがよくあります。

質問攻めとは逆に、次のような例もあります。
ある日に乗ったあるタクシー運転手が、信号待ちで、おもむろに写真を私に見せて、「ほら、これが俺の女房。なかなか、美人だろう。37歳。一番右の息子がオースチンという名前で13歳、その隣の娘がグレース、9歳、左側の娘がーー」と、得意げに家族を紹介してくれたりする。

「リタは何処に住んでるの?」「20分くらい、ここから歩いたところ」

「あんたは?」「すぐ、そこ」

「ほら、できたよ、これでいいかい?」「Salamat。(ありがとう)いくら?」
「50ペソ」(注)

「それじゃ、またくるから」といって、100ペソを渡す。
「Ohoooo !! Salamaaaaaat !!」

一日の稼ぎは、いくらくらいなのか。今までに6,7回は寸法直しを頼んだことがあります。先客にお目にかかったことは、2回しかない。近所の人が、直しを預けていくこともあるのだろうが、機会があれば、訊いてみるつもりです。

本通りを行き来する車の排気ガスを受けながら、快適とはほど遠い店で、今日もリタは仕事をする。
何の変哲もない、代わり映えのしない、それでいて、ふつうの「かけがえのない日常」を維持するために、くる日もくる日も、寸法直しの仕事を続けながら、リタの時間は過ぎていきます。

(注)1ペソの円換算は、2.2円~2.40円くらいで計算してみてください。為替の変動で左右されますが、ごく大まかな金額はつかめると思います。
                        
2023年3月19日・記





コメント

  1. 匿名21:43

    世生さま、お久ふりです。ブログの再始動ありがとうございます。
     なかなか渋い店ですね。日本で例えると畑の前で野菜や果物を売っている即売所みたいですが、店の前や外に吊る下がっている服などは売り物なんですかねぇ。リタさん何歳ぐらいですかね?写真映りが良いのかもしれませんが50~60歳に見えます。
    こう言ったご近所付き合いや馴染みの店とかがあって世間話とかができると心も日々の生活も豊かになりますね。
     【質問責めの儀式】も良き時代の日本にもありましたよね。
    今ではプライバシー重視とか言って聞きもしないし話もしない(自分のこと)のが当たり前になってしまっているようです。
     そうした結果、コミュニケーション能力足りない人が多くなりsnsの中に隠れてしまう人も多くなっていると思います。
     昔は(自分たちの時代までは)、兄弟姉妹が複数いて叔父叔母従兄弟等親戚も多くいてお正月やお盆、冠婚葬祭で大勢の人が集まり自然とコミュニケーション能力を養う機会があったように思います。

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    1. 匿 名 さま

      コメントをありがとうございます。
      最近になってやっと、時間をつくることができるようになりました。ボケッーとしているよりは、なにかやった方がいいと思い、ブログを再開することにしました。
      以前のブログにも書いたことがありますが、多くのフィリピン人にとって、おしゃべりは生活の一部と言ってもいいでしょう。フィリピンのひとつの文化と言ってもいいでしょう。他愛のない話題でも、2、3時間くらいは、平気で延々としゃべっています。
      これからはひと月に2,3回のペースで続けていきます。
      よろしくお願いいたします。

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